【料理長の汚れた手記】
10月2日
代表のギデオン様から極上の「特選肉」を預かった。「7日のディナーで振る舞え」との仰せだ。産地は不明だが、このサシの入りは芸術品だ。明日、予算のことで口やかましい事務長の鼻を明かしてやる。
10月4日
納得いかねえ。五度作り直したが、火を通すとあの官能的な甘みが逃げやがる。見習いのベラが「生の方がいい匂いだ」と抜かしやがった。縁起でもねえことを。
10月6日
事務長の野郎、また厨房に顔を出しやがった。衛生管理だのコストだの、現場を知らねえ奴の小言は聞き飽きた。だが、明日になれば奴もこの肉に平伏すはずだ。ベラの奴、さっきから生肉のボウルを欲しそうに眺めてやがる。
10月7日
一切れ生のまま口に放り込んだ。脳が震えた。30年の料理人人生は何だったんだ?
火も味付けもいらねえ。首のあたりが猛烈に痒いが、どうでもいい。腹が減って死にそうだ。