平清盛の正妻・平時子が夢に見たことは、恐ろしいものであった。
 (夢の中で)猛火が夥しく燃え立っている車が、屋敷の門の内に入った。その車の前後に立っていたのは、馬の頭や牛の頭をしている者であった(※牛頭と馬頭。地獄の獄卒)。車の前には、「無」という文字だけが書かれた鉄の札が立っていた。

 平時子が夢の中で「その車はどこから来たのか?」と尋ねると、
(牛頭もしくは馬頭は)「閻魔の庁から、平清盛をお迎えに参りました」と言った。
 平時子は「ところでその札はなんという札か?」と尋ねると、
(牛頭もしくは馬頭は)「(平清盛は)奈良の大仏を焼き滅ぼした罪によって、無間地獄の底に落とされることを、閻魔の庁が決定したのですが、無間の無だけを書いて、間の字をまだ書いていないのです」と言った。
 平時子は吃驚仰天し、冷や汗をかいて、この夢を人々に語った。これを聞いた人は皆、恐怖で身の毛がよだった。

霊験あらたかな寺や神社に金銀財宝を惜しげもなく送り、馬鞍、鎧甲、弓矢、太刀、刀にいたるまで、取り出して運び出して祈られたが、その効果もなかった。
男女の公達は足元や枕元に集まって、どうしようと嘆き悲しみなさったが、願いがかないそうにも見えなかった。