学生時代、化学の授業で聞いた言葉を、今回のノーベル化学賞のニュースを見て突然思い出した。

「分子には右と左がある。でも自然界では、片方しか使われていない」

正確な授業内容はもう曖昧だ。

右巻きだったか、左巻きだったか。
アミノ酸だったか、分子構造だったか。

ただ、そのとき私は、

「ふーん、そうなんだ」

と思ったことだけは覚えている。

ということを数十年たった今、覚えているということは、
ちょっと、引っ掛かっていたのだろう。
今回のニュースは、その引っ掛かっていた違和感を吹き飛ばしてくれた。

同じ授業を聞いて「なぜ?」と思う人がいる
2026年のノーベル化学賞は、フランスのアンリ・カガン氏と、日本の相相健三氏に贈られた。

テーマは、まさにこの「分子の左右」の問題だった。

分子には、右手と左手のように、鏡に映すとそっくりだが重ね合わせることのできないものがある。

これをキラリティという。

そして生命は不思議なことに、そうした鏡像分子の一方を選択して利用している。

今回のノーベル賞は、この非対称性という長年の謎に挑み、化学反応によって一方の鏡像分子を選択的につくる道を大きく切り開いた研究に与えられた。ノーベル賞公式サイト

私なら「そういうものなのだ」で終わっていた
ここで、昔の自分を思い出した。

教授から、

「自然界では片方しか存在しない」

と教えられた。

私は、

「へえ、そうなんだ」

で終わった。

ところが研究者という人たちは、そこで終わらない。

なぜ片方しかないのか?

反対側は本当に存在できないのか?

人工的につくったらどうなるのか?

片方だけを選んで合成することはできないのか?

そう考える。

この、

「ふーん」で終わる人と、「なぜ?」と考える人との差

が、もしかするとノーベル賞につながるのかもしれない。

常識を知ることと、常識を疑うことは違う
学校教育では、多くの場合「正解」を教えてもらう。

水はH₂O。

地球は太陽の周りを回る。

生命を構成する分子には一定の左右性がある。

試験では、それを正しく覚えていれば点数がもらえる。

でも科学を前に進める人は、その正解を覚えたところから始まる。

「それはなぜなのか?」

と考える。

教科書に書いてあるということと、その理由が完全に分かっているということは、まったく違う。

むしろ科学には、

「現象は分かっている。しかし、なぜそうなるのか分からない」

というものがたくさんある。

そして、そこに研究テーマがある。

「左右」は薬の世界では決定的に重要になる
この研究が面白いのは、単なる学問上の謎では終わらないところだ。

鏡像関係にある二つの分子は、化学式が同じでも、生体の中では異なる働きをすることがある。

人間の体の酵素や受容体自体にも立体構造があるからだ。

右手用の手袋に左手を入れにくいのと似ている。

だから医薬品では、

どちら向きの分子をつくるか

が極めて重要になる。

カガン氏は不斉触媒反応の発展に大きく貢献し、相相氏は、ごく小さな左右差を大きく増幅して片方の分子を作り出す「不斉自己触媒反応」を発見した。

つづき
https://note.com/it_daytrading/n/n8d177ea118f2